HX City2024.12.17

デンソーのコーポレートキャラクター「デンまる」とともに人々の困りごとを聞きながら、5つの領域を持つ街を開発し、その領域を横断した幸せの連鎖を起こして街を大きくするゲーム「HX City」を開発しました。
DENSOが掲げる「幸福循環社会」「5つの流れ※1」「モビリティ社会のTier1への変革※2」とDENSO DESIGNが掲げる「HX(Human Experience)思考」を、誰にでも分かりやすいように見える化し、楽しく理解を深めてもらえるコンテンツを目指しています。
※1 人流、物流、資源流、エネルギー流、データ流のこと。経済活動を5つに分類したもの。
※2 クルマから社会へ提供価値のスコープを拡げること。

ゲームをつくりたい!

中野:このプロジェクトは自主企画から始まりました。デンソーは自動車部品を提供するBtoB企業であり、製品の専門性が高いため、ときに技術者の想いが社内外に伝わりにくいことがあると感じていました。デザイン部では、その想いの魅力を伝えるために、適切な手法やツールを活用し、デンソーの製品が未来の生活で活躍する姿を「将来像」として描くことがあります。将来像は、魅力を伝えるだけでなく、見る人の創造性を刺激し、想いを引き出して製品に重ねることを可能にします。仕事でそのことに気づいたとき、将来像をよりインタラクティブに表現したらどうなるかと想像し、とてもワクワクしました。

インタラクティブな将来像をつくるのに、最適な方法は何か。わたしはゲームではないかと仮説を立てました。そこでゲームエンジンを業務に取り入れることにしました。活用を進める中で、次のようなゲームのメリットに気づきました。
1. 複数の情報をひとつの体験にまとめることで、簡単に理解してもらいやすくなる。
2. 能動的に体験することで、楽しみながら開発者の意図や思いを感じ取りやすくなる。

これらのメリットに加えて、わたし自身デンソーの方針や製品をHX思考で一つのコンテンツにまとめたらどうなるのかという野望が湧き、気づけば上司に「ゲームを作りたい!」と相談し、「HX City」プロジェクトが始まりました。

スキルと体力の総力戦 

中野:ゲーム作りでは、これまでの仕事で培ったブランディング、UX、UI、プロダクトデザインのすべての経験を活かしました。ブランディングの観点では「幸福循環社会」を盛り込みながら、ゲームの世界観やストーリーを作り上げました。UXの観点では、「モビリティ社会のTier1への変革」を街の進化として表現し、「5つの流れ」をイベント解除の要素にしました。また、「HX思考」をプレイヤーのアクションに対する連鎖として取り入れ、ひとつのパズルゲームにまとめました。
UIの観点では、スマートフォンのアプリのように情報を正しく伝えることを重視し、ユーザーのアクションに対してフィードバックを強調して、成果を実感できるように工夫しました。プロダクトの観点では、ゲームの世界観を踏襲しながら、登場する製品を複数のデフォルメされたキャラクター(ゲーム内の3Dモデル)としてリデザインしました。

一番こだわったのが、街の進化の表現です。単純に建物が高くなったり大きくなったりするだけでは、便利さを追求した街という印象になってしまいます。それでは、わたしたちが思い描く「幸せが循環する未来」とは違うと感じました。そこで、自然と共存し、多様性が感じられる街の姿を目指しました。街が進化するときのエフェクトで蝶が飛ぶのですが、そのような思いから、遊び心で登場させています。

伝えたい想いや表現したい未来がたくさんある中で、パートナーのみなさまのご協力のおかげで、ゲームを作りきることができました。日々ゲームを制作されている方々は本当にすごいと思いながら、楽しみつつも全力で駆け抜けた日々でした。

作業ではなく遊びに

中野:2024年8月23日にこまきこども未来館で、デザイン部主催のイベント「HX for Kids」の一つのコンテンツとして、来館された子どもたちやそのご家族にゲームを遊んでいただきました。ゲームが飽和している時代に、そもそも受け入れてもらえるのか、楽しんでもらえるのか、とても不安だったことを覚えています。

イベントが始まり、心配もつかの間、すぐに子どもたちが「遊んでいいですか?」と声をかけてくれました。初めは友達同士やご家族で黙々とスタートしましたが、その後の様子を観察していると、一度のプレイで完全クリアできずに悔しがって何度も再挑戦する姿や、友達同士やご家族で相談しながら楽しそうにプレイする姿が見られました。さらに、一度完全にクリアしたにもかかわらず、何度も繰り返し楽しんでくれる子どもたちが多く、コンテンツが本当に楽しめるものになっていると実感し、大変うれしく思いました。そのとき、ユーザーにとって、取り組むものが作業ではなく「遊び」になっていることが大切なのだと感じました。

その後、感想を尋ねると「実際にある技術だから面白い」「将来デンソーに入りたいと思いました」など、心強いコメントをいただきました。多くの研究や製品を持つデンソーだからこそ実現できたゲームだと感じています。プレイしてくださったみなさま、ご協力いただいたみなさま、本当にありがとうございました!