プロトタイピングとAI2023.10.16

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Proof Of Concept のためのプロトタイピング

Proof Of Concept(通称POC)とプロトタイピング。なにやら呪文みたいですが、デザインではよく使われる言葉で、両方とも「試作」に近い意味を持っていて、POCとは新しい体験価値の検証、プロトタイピングはそのための機能試作みたいな意味になります。
で、下の写真はタクシーの空気清浄機のプロジェクト中に作ったプロトタイピングで、操作機の場所やサイズ感・操作方法を実験できました。これはPOCとしても機能したといえるでしょう。
僕は普段からこういった手法でデザインを進めていくことが多いんですが、体験価値を確認したいというよりは、「ただ作ってみる」のが好きなだけだったりします。どうにかして使えるように作ることがプロトタイピングの妙であり、今回は少しその話ができたらなあと思います。

化学展示の作成の話

ある日、分子の動きを表現する化学展示の作成を依頼され、せっかくなので、その大部分を自作でやってしまおうというプロジェクトがありました。ここでは、普段のデザインとは異なり、価値検証が目的ではなく、稼働し続けられる強度と完成度をもった展示品を作ることが目的でした。つまり、「完璧に作ってみる」という依頼で、そこでのとある発見を紹介したいと思います。

100点を目指すプロトタイピング

この展示は、技術をわかりやすく表現するために、スイッチを押して元素の反応がディスプレイ上で見れるようにする、科学館にあるような展示を目指して作成しました。
主に必要になったスキルは、インターフェースのためのUIデザイン、インタラクティブな機能を作る電子工作、最後にモックのガワを作るためのプロダクトデザインの3つでした。(大体いつもこの組み合わせでプロトタイプを作っています。)

いつもは、ひとまず本番で動けばよいので、細かな調整をしなかったり、手を抜けるところはハリボテにして大体70点くらいのモノを作ります。(業務効率化のためにもこのくらいがベターです)しかし今回は、動き続けるモノを作らないといけないので、いろいろな部分で100満点のごまかしの効かないモノを作る必要があり、そこが一番大変でした。元素の反応のプログラムは、初期段階は下左のような丸を動かすだけの動作からで、ガワも最初はスチボをPCに張り付けて検証するところから始まりました。
この実現までの長さと先の見えなさが、非常に苦しい期間となります

0→1を生み出し、繋ぎあわせるAI

そうした非常に苦しい期間の中、必要な要素を一個一個作り上げて繋いでいかなければいけません。特に大変なのはファンクションの部分で、インタラクティブな展示を作るためにはどうしてもプログラムで動かさなければなりません。僕は特に情報分野のバックグラウンドがないため、0→1のプログラムの作成と、作ったプログラムを組み合わせるときにとても時間がかかります。(大体うまくいきません。)しかも今回は100点を目指すプロトタイプなので、そこを完璧にしないといけません。
そんな中、藁にもすがる思いでAIに恐る恐る聞いてみたところ、元素の挙動の数学的な式やarduinoのプログラムまで、ほぼ完璧に回答をしてくれました。(arduinoのプログラムは一発で動きました。)

デザイナーの実現力を加速させるAI

機能の実装において0→1の生成と、個別の機能をつなぎ合わせられるAIの能力は青天の霹靂でした。
ことプロトタイピングにおいて、それらの能力をデザイナーが皆使いこなせるわけではありません。
僕自身、学生時代LED一つ動かすのによくわからないコードを書いたり、凄く頑張って作ったゲームのクオリティが惨憺たるものだったり、いろいろと苦い思いをしました。(そうしてだんだんと実現性と効果のバランスを考えられるようにはなるのですが...)
こうした徒労に近い学習過程をすっ飛ばして、プロトタイピング、はてはPOCまで作れてしまうのは、デザイン業界において実はエポックメイキングなことなのでは...というのが今回の発見です。

紆余曲折を経て、他の業務も抱えつつ、展示は無事3か月で完成しました。その間で、わからないことはAIに質問するようになり、大幅な時短と実現性を獲得できました。
AIは創造性と実現力の間で悩む学生デザイナーや、時間のない中で成果を出さなければならない社会人デザイナーにとって、時にはエンジニアで、時には数学者で、時には翻訳家のような頼れる相(AI)棒となってくれるでしょう。クリエイティブにおいて良い面も悪い面もあるAIですが、体験価値の実証という点において、デザインの実現力を大きく加速させていくのではないでしょうか。