TGDAプロジェクト2025.06.12

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本記事は、デンソーデザイン部市村が、現場での体験と考察をもとに執筆しています。

TGDAとは、
TECHNO GRAPHICAL DATA ARCHIVE
テクノ・グラフィカル・データ・アーカイブ 
の略称です

2023年からスタートした、デンソーとLoftworkが運営するクリエイティブスペース・FabCafe Tokyoによる共同プロジェクトTGDAの特集記事が、Loftwork公式Webサイトにて公開されました。
東海道地域を中心に活動する職人の手技をデジタルアーカイブすることで、伝統技術の継承と活用の可能性を探るプロジェクトです。






「未来社会のための
 アーカイブス論」

2024年2月、TGDAの取り組みに関連するトークイベント
「未来社会のためのアーカイブス論」が、渋谷のFabCafe Tokyoにて開催され、私も現地で参加してきました。

このイベントは、単なる活動報告ではなく、「そもそもアーカイブとは何か?」「残すことに意味があるとすれば、それは誰のためか?」という問いに立ち返る場として企画されたものでした。


登壇者は、嵐絞りの伝統を受け継ぐ絞り作家・早川嘉英さん、慶應義塾大学 文学部 准教授・福島 幸宏さん、そしてデンソーのインハウスアーティストである私の同僚・吉岡裕記さんの3名。
それぞれの視点から記録と継承の意味を掘り下げていくセッションとなりました。

多災社会において
人の技術をどう再接続するか

特に印象的だったのは、近年頻発する自然災害の中で、技術や文化をどのようにアーカイブするかという話題でした。

たとえばドーナツの穴のように、それ自体には実体がなくとも、周囲の関係性を記録することで存在を浮かび上がらせることができる。
そして、アーカイブを「保存する」のではなく、「誰かと未来でつなぎ直す」行為として捉えるという考え方です。

TGDAは、ただ伝統技術を残すことが目的ではなく、その価値を再発見し、誰かの創作や学びの火種となるような未来にひらかれたデータをつくることを目指しているのだと感じました。

技法を記録するのではなく
関係性を記録する

プロジェクトの現場に足を運び、職人との対話を重ねてきたメンバーの言葉からは、記録するべきは技法そのものだけではないという考えが共有されました。
布をどう巻くのか、どのタイミングで糸を締めるのか。そのような繊細な身体感覚を支えるのは、職人と素材、道具、空間との関係性そのもの。

その関係性をできるだけ忠実に、かつ開かれたかたちで可視化することこそが、アーカイブの核心なのではないかと感じました。
さらに、こうして記録された3Dスキャンデータが、人間の手では再現が難しい動きや、職人自身もまだ気づいていなかった新しい図案の可能性が広がる、という話にも触れられていました。

デジタルという視点を通すことで、技術の継承にとどまらず、創造のヒントや新たな表現を生みだすこともできるのだと知り、記録が未来に開かれていく感覚に心が動かされます。
プロジェクトに関わる誰もが、データとしての正しさだけでなく、次につながる温度をどう残すかに真摯に向き合っていることが伝わってきました。

アーカイブは終点ではなく
問いの始まり

イベントの中での、吉岡さんの言葉が今も印象に残っています。

「テクノロジーによって、誰を幸せにするのか、どんな未来を開くのか。
 その問いがなければ、技術の意味は見失われてしまう。」

ビッグデータという言葉が、ビジネスの現場で急速に広まりはじめた頃のことを思い出しました。
当時は、膨大なデータを集めることに注目が集まりやすく、「何のために、誰のために活用するのか」という視点が、十分に語られにくい時期もあったように感じます。
TGDAではただアーカイブするだけでなく、そのデータを未来の誰かがどう使うのか――その実践の可能性までを視野に入れて設計されているのだと強く感じました。
記録の先に実践があり、実践の中で、また新たな問いが生まれていく。
アーカイブは終点ではなく、むしろ「問いを更新し続ける起点」なのだと気づかされました。

これからの展望

現在TGDAでは、アーカイブデータを活用したWebプラットフォームの構築が進行中です。
この取り組みについての本サイト公開は、2025年9月を予定しています。
アーカイブは「保存するため」だけではなく、「次につなぐため」にある
その思いを込めて、今後もアップデートを続けていきます。

TGDAの次なる展開に、どうぞご期待ください。

写真提供: FabCafe / © Loftwork Inc.