2025年9月、「美術のオリンピック」とも称される世界最古の国際美術展、第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展(イタリア)に、市村と舛田が欧州リサーチの一環で訪れました。
テーマは「Intelligens. Natural. Artificial. Collective(知性、自然、人工、共同体)」。総合ディレクターのカルロ・ラッティ氏は気候変動の深刻化を受け、建築は「緩和」ではなく「適応」し、地球に従うという発想の転換が必要だと説きます。
今回は、ヴェネチアの現地で印象に残った展示や街の様子、感じたことなどをそれぞれの視点で紹介します。


市村:たくさんの刺激を受けたとても良い旅になりましたが、欧州リサーチは日を追うごとに体力を使い、連日3万歩くらい歩いていたのも印象的です。
ヴェネチア・ビエンナーレは建築の祭典ということで、会場がとにかく広いんです。既にアルスエレクトロニカ(リンツ)で歩き回っていたという背景もあり、体力面でも思い出深い旅になりました(笑)。

舛田:僕はヴェネチアには初めて行ったんですが、とても良い機会になりました。
この世界で一番古い国際美術展は現代美術、建築、映画など多分野に分かれているということも知りました。僕らが訪れたのは建築展のほうでしたが、その会場は国がパビリオンを出すエリア、そしてアーティストの作品が並ぶエリアで分かれていましたね。

市村:今回の出張目的はというと、大規模な国際展示会を通じて社会の最新動向に関する知見を広げること、そして今後の発信のきっかけとなるようなインスピレーションを得ることでした。
舛田:僕も、この国際的なフェスティバルでの探索活動と新しい視点の獲得を目的としていました。
今回の展示会では、気候変動に対する「適応」という未来志向のテーマに触れられたことで、特に環境領域に関してヒントを得られたように思います。
舛田:今回のビエンナーレのテーマは、気候変動が進むなかで「環境変化を緩和させるのではなく適応する方向へシフトすべきだ」という主張がベースにありました。
建築は人が住む場所を作るため、環境問題への感度が高い分野です。テーマを考える際、緩和ばかりに考えがおよびがちでしたが、適応していくという視点を得られたのは大きな気づきでした。
市村:ヴェネチアの展示は、たとえばグッドデザイン賞のような商品でなくても「コンセプトや考え方を展示できる」という点に驚きました。
販売実績がなくても応募や展示ができるので、より夢のあるもの、つまりは実現するテクノロジーがまだ入っていない構想段階のものを提示できるんですよね。


舛田:企画展示部門で金獅子賞を受賞した「カナル・カフェ」は、まさにそのコンセプトを体現していました。これは、ヴェネチアの運河(カナル)の汚水を濾過して、その水でエスプレッソを淹れるというプロジェクトです。
僕らが行ったときには水が浄化された状態になっていたんですが、水不足が深刻化するなかで資源をどう利用していくかという問いを、身体的な感覚を通して突きつけられたように思います。
きれいな水がいつでも飲めるという環境が、決して当たり前ではないということにも気付かされましたね。

市村:バーレーン館が出展していた「Heatwave(熱波)」の展示も良かったです。クーラーを使わずに地中の冷たい空気を循環させる「自然冷却システム」のコンセプトを巨大なモックアップ(試作品の模型)で再現していました。
冷たい風は出ていないのに、その構想から未来を想像させるという展示の仕方が面白かったですね。
建築や技術そのものというより、コンセプトの力で勝負した展示というのが印象的でした。


舛田:会場で作品を出しているデンマークのアーティストのパベルスさんなど、前から知り合っている方と改めて深く話をする機会を持てたことも大きな収穫でしたね。
会場を案内してくださったデンマークのアーティスト、パベルスさんの作品については別途記事を掲載していますので、ぜひご覧ください。
2024年12月2日(月)デンソー名古屋オフィスで「持続可能な社会の実現を加速させるアーティストやデザイナーの視点と役割の探究」をテーマに、株式会社レアさんよりご紹介いただいたデンマーク在住のアーティスト、パべルス・ヘッドストロームさんをお迎えし、クリエイターズトークを開催しました。
https://design.denso.com/activities/2025/01/creators-talk.html
市村:個人的に面白かった作品は、伝統工芸の模様を「職人の彫刻」(※画像1枚目)と「ロボットの彫った彫刻」(※画像2枚目)とで比較展示している作品です。


市村:自動化が進むなかで、いろいろな作業をロボットにやってもらおうという流れがあると思いますが、比較してみると人間の表現幅に改めて魅力を感じました。
どこを細かく彫ってどこを緩めるかという「強弱の付け方」、つまりは「緩急の付け方」が素晴らしかったです。もちろんロボットが劣っているというわけではなく、人の手仕事ならではの味わいを改めて感じさせてくれるような作品でしたね。


市村:日本館の展示は、難解でわかりづらい部分もあったんですが、「In-Between(中立点)」というテーマで人間と生成AIとの関係を考えさせられるような空間でした。
緑一色で、正面と左右の壁に映像が投影され、それに同期した声や音楽があちこちから流れるといった作りです。和風の家屋や茶室といった「伝統の日本」ではない、新しい日本のあり方をヨーロッパ的な見せ方のなかで表現している点が興味深いと思いましたね。

市村:それから、水上都市ヴェネチアならではのコンセプト作品も目を引きました。
水上ボートや水上バイクを、共有自転車のように使うためのステーションと乗り物のデザイン提案です。ただ技術を見せるのではなく、近未来的なステーションの形から入ることで、そこに至るまでの体験やワクワク感を重視していて、見せ方が優れているなと感じました。
実用性も見栄えも良く、この水上都市ならではのコンセプトだなと感じ、印象に残っています。


市村:街中の展示の告知の仕方は、非常に美意識にこだわっているなと感じました。
ヴェネチア・ビエンナーレは会期が5か月間と長いので、真っ赤な看板を街中に立てると目立ちすぎてしまう。そのため、チケット売り場などの重要な案内板は赤色ですが、単純な告知は壁とほぼ同化するようなナチュラルな色使いが採用されていました。
舛田:ほとんどプロモーション的な告知がされておらず、展示会自体が街に溶け込んでいましたね。もちろん入場券は必要なのですが、街の観光の一部に組み込まれているかのように感じ、都市の景観と調和させることにこだわっているように思いました。
リンツ(アルスエレクトロニカ)の「人をどう呼び込むか」という姿勢と比較して、「いつも人がいるヴェネチアの場所でどう溶け込むか」という動線の違いも興味深かったです。
市村:余談ですが、ヴェネチアに来て移動の厳しさにも直面しましたね。
船が市バスの役割を果たしており、船か歩くかしか移動手段がなかったので。船の1回の料金が9ユーロ近くかかることもあり、非常に高く感じました。
そんな背景から近距離の場合は自然と徒歩を選択することが多く、どんどん体力が削られていきました。



舛田:今回、アルスエレクトロニカとヴェネチアの二つの国際展を体験し、それぞれの場所の特色や歴史が展示コンセプトや構成に影響していると気づきました。
ヴェネチアはキュレーター(学芸員)がテーマをリードし整然とした構成ですが、アルスエレクトロニカはカオスな部分もあるという違いがありますね。
また、ヴェネチアは建築展という感度の高い分野で「緩和から適応へ」という未来志向のテーマに触れられたことが大きかったです。
今後、これらの知識をどう活かせるかを深く考える必要があると感じています。
市村:ヴェネチアで見た、商品/製品という形になっていなくても「コンセプトや考え方」を具体的に展示できるという手法には、今後の活動に活かせるヒントが散りばめられていたと感じます。
これらの経験を活かして、未来に向けた新しい活動を生み出すきっかけにしたいですね。
また、次回はもっと体力をつけて、全部を見て回りたいというチャレンジ精神も湧きました。今後もこうした展示会を通じて、デンソーがさらに発展するきっかけにつなげていければと思っています。
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