2024年12月2日(月)デンソー名古屋オフィス15F CraftBaseで
「持続可能な社会の実現を加速させるアーティストやデザイナーの視点と役割の探究」をテーマに、株式会社レアさんよりご紹介いただいたデンマーク在住のアーティスト、パべルス・ヘッドストロームさんをお迎えし、クリエイターズトークを開催しました。
クリエイターズトークはデンソー社内で不定期で開催している、様々な分野で活躍されているアーティストやデザイナーをお迎えし講和や社員と対話をしていただく場です。
このイベントは、持続可能な未来を築くためのクリエイティブな視点や具体的な方法を探ることを目的にし、さまざまな部署の社員が参加。新しいアイデアや視点を共有する場となりました。
第一部はパべルスさんの、自身の経験や考え方をもとに実際に行ってきたプロジェクトについて語っていただきました。
パベルスさんは「良いコラボレーションには、良いコミュニケーションが欠かせない。多様な考えや背景を持つ人たちと一緒に取り組むことで、新しいアイデアが生まれる」と言います。
また、互いにリラックスして話せる環境を作り、お互いのスキルを認め合うことが、プロジェクト成功の鍵になるとも語りました。この視点は、日々の業務においても活用できる非常に実践的なアドバイスと言えると思います。
パベルスさんは「心から興味を持てる問題をテーマにすることが大事」と語ります。情熱を持てるテーマなら、解決策を考えるのが楽しくなり、より良いアイデアが生まれるからです。
彼は「自分が関心を持てるテーマを選ぶことで、他の人を巻き込む力が生まれる」とも述べており、これはチーム全体のモチベーションを高めるヒントになりそうです。
パベルスさんは、自身の代表的な作品のひとつである「Fog-Xジャケット」を紹介しました。FOG-X(フォグ・エックス)は空気中の霧を集め、水を生成するバックパック型デバイスです。
レクサスデザインアワードを受賞したこのデバイスは、その後ジャケット型に進化しました。
この作品は、空気中の水分を集めて飲料水を生成するというユニークなコンセプトを持っています。
彼はこのデザインについて、「ただのアイデアではなく、実際に環境問題の解決に役立つツールとして開発した」と説明しました。
そして、このプロジェクトを通じて、持続可能なデザインがどのように実現可能であるかを語り「Fog-Xジャケットは、環境に優しい素材を使いながら、効率的な技術を取り入れた結果生まれたものです」と強調しました。この話に参加者は大きな興味を持ち、質問も飛び交いました。
パベルスさんは自らが実践する「16のデザインプロセス」を紹介しました。このプロセスは、彼が長年の経験を通じて編み出したもので、創造性を引き出す具体的なステップを示しています。
以下はその一部です
・アイデアを紙に書き出す
・チームでブレインストーミングを行う
・小さなプロトタイプを作成してテストする
・フィードバックを得て改善する
・デザインを実際の環境で試し、実用性を確認する
このプロセスは、どのステップも重要であり、一つひとつ丁寧に進めることで、より良いデザインが生まれると説明しました。また、「失敗は学びの一部」とし、うまくいかなかった場合もプロセスを振り返りながら進化させることが大切だと強調しました。
講演の中で、パベルスさんは「ストーリーがデザインを支える」とも語りました。Fog-Xジャケットのように、「このジャケットを着れば、水を自分で作れる」というシンプルで覚えやすいストーリーが、多くの人の興味を引いたそうです。ストーリーを通じてデザインの目的や価値を効果的に伝えることが、成功の秘訣だと強調していました。
ストーリーは、デザインをただのアイデアではなく、人々の心に響くものに変える力があります。パベルスさんの講演を通じて、わたしたちは「自分のアイデアをどう伝えるか」を考える大切さを学びました。
第二部では、株式会社レアさんとパベルスさんにデンソーのHXをメインに紹介した後、当日参加者の方からいただいた質問に回答してもらいました。
このセッションでは、日々の業務で直面する課題や疑問について、具体的なアドバイスを得ることができる貴重な機会となりました。
Q. サステナブルな幸福についてどう思いますか?
A. サステナブルな幸福を追求するには、言葉の選び方が非常に重要です。
現在、多くの企業が『サステナビリティ』や『幸福』という言葉を使っていますが、時にはこれが中身の伴わないものに見えてしまうことがあります。本当に持続可能な社会を実現するには、具体的で行動に基づいた言葉を使う必要があります。また、日本文化に根付く禅や神道のような哲学も、この目標を達成するための重要なヒントを提供してくれるでしょう
Q. 先鋭的な問いを投げかけるスペキュラティブデザインと、現実的な問いを解決するトランジションデザインのどちらに注力すべきでしょうか?
A. スペキュラティブデザインは未来の可能性を探る上で非常に有益ですが、現実的な課題を解決するトランジションデザインも同じくらい重要です。私自身のアプローチはその両方を組み合わせています。アイデアを投げかけるだけでなく、それがどのように実現可能かをプロトタイプで示すことを重視しています。ですので、デザイナーはその状況や目標に応じて両方を適切に活用するべきです
Q. 創造のプロセスにおいて、失敗や希望についてどう考えますか?
A. 私はデザインのプロセスを始める際、強くて希望に満ちたストーリーを作ることを心掛けています。そのストーリーには、新しい視点やワクワクするようなデザインソリューションが含まれているべきです。そして、デザインプロトタイプを作成し、最終的には実際の環境でテストと記録が可能な包括的なプロトタイプに仕上げていきます。たとえプロトタイプが効率的に機能しなくても、しっかりと記録が残っていてストーリーが明確であれば、それは失敗とはみなされません。つまり、アイデアがしっかりしていれば、失敗のリスクは非常に小さくなります
Q. 創造の行き詰まりを乗り越えるための哲学や方法はありますか?
A.創造の行き詰まりを解消するために、以下の方法をお勧めします
1.散歩をすること
2.一日休息を取ること
3.禅の瞑想を行い、リセットして新しい視点を得ること
4.他のクリエイターと問題について話し、別の視点を得ること
5.思考を一時的に止めるような身体的活動を行い、脳をリフレッシュさせること
Q. デザインへのアプローチを見直すきっかけとなった経験を教えてください。
A. 数年前、自分一人でデザインを作り上げて、地球や人々に大きな影響を与えることができると考えていました。しかしその結果、非常に大きなプレッシャーを感じ、最終的には燃え尽きてしまいました。何か月も病気になり、働くことも生活を送ることもできなくなったのです。一年ほどかけて回復する中で、深く考えました。そして、環境や社会に真の影響を与えるには、コラボレーションが必要不可欠であると気付きました
Q. コラボレーターとのつながりをどうやって作るべきですか?
A. 良いコラボレーションは、良いコミュニケーションから始まります。ですから、まずはご自身のコミュニケーションスキルを高めることをお勧めします。さまざまな背景や文化、職業を持つ方々とコミュニケーションをとる練習をしてみてください。次にどのような方とコラボレーションすることになるかわかりませんので、そうした練習を通じて多様な候補者と出会うチャンスが広がります。また、リラックスして話せて、お互いのスキルを認め合える相手を選ぶことが重要です。そうすることで透明性のある率直なコミュニケーションが可能となり、プロジェクトのスピードや効率、成果が向上します
Q. 多くの問題の中でどのようにテーマを選べばよいでしょうか?
A.ご自身が最も関心を持ち、頭から離れない問題を選ぶのが良いと思います。その問題に対して解決策や提案を考える情熱を持てるかどうかが重要です
Q.将来のデザイナーやアーティストに教えたいことは何ですか?
A. 以下のことを教えたいです
・より批判的であること
・より遊び心を持つこと
・自分の人間性やデザイナーとしての可能性を最大限に引き出す方法
イベントを通じて感じたこと
このイベントは、デンソーデザイン部のメンバーが新しい発想を得るきっかけとなりました。特に「情熱を持つこと」と「ストーリーの力」の話は、聞き手にとって印象深かったようです。パベルスさんが「小さなチームでも、日本から世界へ発信できる力がある」とエールを送ってくださったことも、参加者の心に響きました。
今回のイベントを通じて、私自身も多くの気づきを得ることができました。社内外の皆さんとともに、新たなアイデアや視点を共有し合うことで、今後の業務やプロジェクトに活かせる確かな手応えを感じています。
この経験を基に、デンソーからより多くのクリエイティブなプロジェクトを発信し、持続可能な社会の実現に向けてこれからも新しい価値を生み出す挑戦を続けていきたいと思います。
Pavels Hedström パべルス・ヘッドストローム|inxects
Inxects代表。デンマーク・コペンハーゲンを拠点とするスウェーデン人建築家。
コアミッションは、デザインの実践によって、人間と自然との間に広がるギャップを最小化すること。2021年にデンマーク王立芸術アカデミーでArchitecture and extreme environmentsの修士号を取得。コンセプト、戦略、デザインを幅広く手がけ、建築、インフラ、モバイルアプリ、ファッションのコンセプト開発に携わる。
建築業界を離れてからは、「Inxects(インセクツ)」と呼ばれる独自のデザインアプローチを確立。Design Educates Awards 2022やLexus Design Awards 2023など国際的なアワードに選出。Lexus Design Awards 2023ではLexus Your Choice Awardsを受賞した最初のデザイナーとなった。現在では、海洋石油産業における変革的コンセプトに取り組み、循環経済と再生生態系における新たな戦略を開発している。2025年度「第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」へ出展予定
「人の想い」から始まるプロジェクトを、北欧社会をヒントに、引き出し・支援し・実践する共創型アクションデザインファーム。多様な企業や研究組織、大学機関や地域等に対してクリエイティブ人財育成と組織開発の支援を行っている。