デンソーデザイン部では、「HX(Human Experience)」という考え方を取り入れ、その実践方法を社外の異なる世代や分野へ広めながら、グローバル社会と共創するための接点をつくっています。 その一環として、名古屋工業大学と南洋理工大学(シンガポール)と連携し、「2035年の多様なモビリティ社会に求められるもの」をHX視点で考える産学連携ワークショップを実施しました。
近年、「UX(User Experience)」という概念が広く認知され、デザインワークにおいて重要な役割を果たしています。
デンソーデザイン部が取り入れているHX(Human Experience)は、対象のユーザーだけでなく、その周囲の関係者や社会全体、さらには地球環境までを包括的に捉え、より持続可能で影響力のあるデザインを目指すための思考法です。
本活動では、名古屋工業大学と南洋理工大学の学生が混成チームになり、シンガポールでのキックオフミーティング~フィールドリサーチを発端とし、3ヶ月に渡るデザイン思考プロセスを通じて、HXを学び、実践しました。
シンガポールの南洋理工大学に到着後、デンソーのデザイナーが参加者に向けてHXの講義を行いました。
演習では、既存の製品やサービスを題材に、その活用方法を実践的に学び、HXの概念をより深く理解する機会となりました。
HXとは
HXには、2つの重要なポイントがあります。
まず、特定の製品とそのユーザーを中心に据え、影響を受ける周囲の人々、社会全般、さらには地球環境に至るまで、波紋のように思考を広げながら関連する全体像を可視化します。このプロセスを「思考の拡張」と呼びます。
次に、特定した対象が受ける影響を整理し、ポジティブな側面だけでなく、ネガティブな影響にも着目。その課題から目を背けることなく、すべてのステークホルダーにとって最適な製品・サービスのあり方を探求します。このプロセスを「思考の反転」と呼びます。
HXという新しい概念に加え、デザイナーのアプローチに馴染みのない工学系の学生にとっては、この演習は決して容易なものではありませんでした。また、日本人の学生にとっては、不慣れな英語でのディスカッションは大きな挑戦となりました。
「2035年の多様なモビリティ社会に求められるもの」を考えるにあたり、課題を発見するためのフィールドリサーチを実施しました。
各チームは、日本とシンガポールの共通点や相違点を議論しながら、さまざまな場所に赴き、課題の特定に奔走。長距離サイクリングを通じた移動体験、セントーサ島でのリゾートモビリティの調査、多文化が交錯する街でのインタビューなど、それぞれのチームが独自のアプローチを展開しました。
シンガポールでの活動の締めくくりとして、各チームがリサーチ結果をもとに発見した課題を発表しました。発表内容もさることながら、リサーチを通じてお互いの理解を深め、結束を強めていく様子が印象的でした。
日本メンバーが帰国した後は、オンラインでの活動へと移行しました。
途中経過では、「どの技術を活用するか」「工学的にどう改善できるか」といったシーズ寄りの視点が中心となっており、課題の本質に十分に踏み込めていない印象を受けました。しかし、議論を重ねるうちに、次第にユーザーの行動に深く着目できるようになっていきました。
例えば、点字ブロックをテーマにしたチームは、実際に目を閉じた状態で大学や駅を移動し、対象のユーザーになりきる体験を通じて、真の課題を探ろうとする姿勢が見られました。
最終的には、演習で学んだHXのフレームワークを活用し、対象のユーザーにとどまらず、社会全体へ価値を波及させる提案がいくつも生み出されました。
活動の締めくくりとして、名古屋工業大学と南洋理工大学の学生・先生方にデンソー本社までお越しいただき、優秀チームの表彰と全10チームによるポスターセッションを実施しました。
当日は、デザイン部だけでなく、人事部をはじめとする社内の多くの関係者が参加し、約4カ月にわたるプロジェクトを盛大に締めくくることができました。
本活動を通じて、参加された学生の皆さんには、HXという新たな視点を獲得してもらえたと感じています。同時に、私たちも彼らの積極性や柔軟な発想力に刺激を受け、深く感銘を受けました。
今後も、皆さんのさらなる成長を期待しています。
Member
Creative Direction: Yukihiro Kajita
Project Management: Hiroyuki Yamamoto
Project Lead: Keisuke Toda
Designer: Ayane Tezuka, Kai Yamamoto
Support: Masaki Inomae
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