デンソーデザイン部では、様々な個性を持ったデザイナーが働いています。プロダクト、グラフィック、UIUXなどその専門分野はさまざまですが、各領域を横断して知識を深めるために部内教育を行っています。今回は、プロダクトデザインの基礎力を高める「プロダクトスキル教育」を受講した3名の若手デザイナーに活動を振り返ってもらいました。
―教育を受けた背景について
手塚:私は普段、展示会ビジュアルや雑誌広告の作成など、グラフィックデザインの業務をメインにしています。プロダクト関連には少しだけ業務で触れていましたが、簡単な形状しか作ったことがありませんでした。頭に思い浮かぶ立体を形にできるようになれば、自身のグラフィックデザインも幅が広がると思い参加しました。普段では関わりの少ない人と交流するのも目標でしたね。
菅原:主な業務はUIUXデザインで、これまで自治体ポータルアプリや展示会会場の案内用UIなどに携わりました。私は、自分の触れてきたデザイン分野の幅がとても狭いと感じていました。学生時代は体験を考える視点が多くて。特に今まで一番やったことが無いのがプロダクト関連のスキルだったので、挑戦したいなと思っていたんです。プロダクトデザイナーと同じ視点で話したり、検討できるようになりたくて参加しました。
上念:僕は今年配属された新入社員でまだ業務経験は少ないのですが、万博でデンソーのCO2回収技術を伝える展示物のデザインや、イベントのサイン計画を経験しました。デザイン事務所のインターンでプロダクトデザインを見よう見まねで学んでいたのですが、立体形状を突き詰める経験は少なかったんです。今回は、複雑な三次曲面を持った形状を作ることに挑戦したいと思っていました。

―教育の題材は「バーコードリーダーのスタイリングデザイン」。どのような課題意識で、どんな提案を?
菅原:「目的に合わせた造形を考える力」を身につけることが目標でした。提案は「握力が鍛えられるグリップ型リーダー」です。通常のリーダーは操作負荷が少ないように作られていると考え、「あえて操作にストレスを追加したらどうなるか?」という観点から造形を導きました。「握る」という行為に着目して、握力計や筋トレ器具のグリッパーを参考に造形しました。
手塚:これまでは簡単な立体しか作ったことがなかったので、三次曲面が多い造形に挑戦しました。せっかくなのでデンソーらしくない提案がいいなと思い考えたのが、「ギャルのためのバーコードリーダー」です。自分のネイルを見ながら仕事したらモチベーション高く働けるのでは?と思い、ネイルをかわいく見せることができるリーダーを提案しました。
上念:手塚さんと課題感は近いのですが、これまでは置いて使うモノを幾何的な形状でまとめることが多かったので、そこから一歩踏み出すために「動きながら使うプロダクト」を「三次曲面でまとめる」ことに挑戦しました。色々アイデア出しをした結果、提案は「鬼ごっこ専用バーコードリーダー」としました。身体に装着したバーコードを読み取り合う遊びを勝手に想像して、持って走る動きや、腕を伸ばして読み取る動きに合った形状を意識しています。

―教育を受けて変わったこと
上念:少しの線や面のゆがみが想像以上に全体の違和感につながることを身をもって学びました。また、面がどのように構成されているか?という視点をもって世の中にあるものを観察できるようになりましたね。特に、車を見た際に入ってくる情報量が増えた気がします。デザイナーが見せたかった・重視したかった面はここかな?と想像してみたり。
菅原:まず、自分がいかに身の回りのモノを視ていなかったのかを実感しましたね。何が良くて何がだめなのか、なぜこの凹みがあるのか?が観察するだけでは分からなくて。形状の理由を探るためには、実際に触ったり、スケッチしたりして、必要な構造を推測することが必要で。当然ですが、すべてのモノ・形状・CMFに理由があるんだなぁと。
手塚:私は3Dソフトを開くハードルが下がりましたね。教育を受けた直後に3Dデータを作成して、レンダリングして資料に使うことがあって。自分の表現の幅が増えた実感がありました。あとは、プロダクトを学ぶことで、少しプロダクトデザイナーらしさというか、デンソーデザインらしさ?みたいな部分を掴めた気がします。触らないと分からないような違いにとことんこだわる、職人気質みたいなところというか。
菅原:わかります!グラフィックでも1ピクセルの違いにこだわりますけど、プロダクトは触って初めてわかる違い、という部分があるのが新鮮でしたね。
手塚:そうそう。グラフィックと違って、いろんな方向から見て形状を考えないといけないのが、難しいと同時に面白かったです。

―専門分野の異なる3人が同じ課題に取り組んだことで、気づいたこと
手塚:専門分野が違うように、コンセプトの作り方も三者三様でしたね。各々の頼れる部分を知れたと思います。同じ課題に取り組むことで、改めて自分の特性...得意なことや苦手なことを理解しました。
上念:そうですね、同じ課題だからこそ、それぞれの視点・スタイルの特徴が際立っていたと感じます。自分の好き!をよりどころにしてどんどんアイデアを出す手塚さん。生活の中で気づいた違和感から出発して、空想?ファンタジー?を絡めてアイデアを出す菅原さん。お二人ともプロダクト領域では無いですが、体験を考える・優先順位をつける能力はどのデザイン領域でも変わらず必要かつ応用可能な能力だと感じました。
菅原:同感です。背景をよく観察して解決策をフィットさせていく、そのために造形を探っていく…。そんな考え方や視点は、専門分野関係なく共通しているなと。「デザイン部の皆さんは、なぜこんなに多彩な業務ができるのか!?」と不思議だったんですが、根っこの考え方が共通しているから色んなデザインができるんだなと納得したし、専門分野以外にも向き合うことで、配慮できる世界が広がると感じました。
手塚:今回はプロダクトスキル教育でしたが、私の課ではグラフィックデザインのスキルアップを目的とした「グラフィックデザイン塾」もやってるので、お二人にはそちらにもぜひ参加して欲しいですね!

自らの専門領域を軸としながらも、横断的にさまざまな領域のデザインを学んでいくことで、仕事の幅も、チームワークも高めていく。これからもデザイナーの学びは続きます。
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