マイナスをゼロにするだけでなく、人の心身の状態がゼロからプラスに拡大していく Well-being の価値提供が今後重要となると考え、取り組んでいる研究活動です。幸福のメカニズム解明と定量化を狙っています。
幸福に至るメカニズムの解明と、その定量化を目指しプロジェクトはスタートしました。
プロジェクトメンバーは幸福について全くの門外漢だったため、研究や理論について学ぶことから始めました。書籍や論文を読み、研究者とディスカッションすることで知見を深めていきながら、デンソーデザイン部として深堀を行う幸福領域を下記のように定めました。
「自発的にやってみようと思い、楽しみながら挑戦に没頭する幸福」。
これは自己実現に関わる領域であるポジティブ心理学のPERMA理論や、没頭に関わる領域であるフロー理論をベースとした幸福感です。
幸福研究については全く知らなかったため、デンソーで取り扱えるようなテーマになるんだろうか、と不安なところもあったのですが、深く知れば知るほど、挑戦やより良い状態を目指す姿などがデンソーらしいなと感じるようになりました。
「自発性を発揮し没頭する幸福感」へ至るメカニズムの解明を行うために、120名の一般ユーザを対象に実証実験を行いました。
自発性に着目するため、やる義務や必要性のない「趣味」の家庭菜園を実験のテーマとしました。
「幸福理論を機能として盛り込んだアプリA」と「一般にあるアプリと同程度の機能を持つアプリB」を提供し、どういった差が出るかを検証しました。
アプリの利用データや幸福度に関するアンケートデータの分析を行ったところ、アプリAのみに搭載した「育て方やレシピなどの試したくなる情報を配信するニュース機能」が没頭や幸福感に繋がっていることが分かりました。それに加えて実験参加者へのヒアリングを行うことで、狙っている幸福感に至るための重要な要素が分かってきました。
個人的な感想ですが、BtoBメーカの中で実際のユーザが遠いと感じることもあったのですが、このプロジェクトではユーザの皆さんからの質問への対応、野菜が育った嬉しさを共有する声などをダイレクトに見ることができ、今までにないようなやりがいがあるプロジェクトでした。
自発性・チャレンジの幸福に至るメカニズムを図示したのが上記の「幸福メカニズム図」です。
大きな特徴としては、チャレンジの各段階毎にポジティブな状態とネガティブな状態があることです。
例えばチャレンジの起点では、前向きな気持ちでチャレンジを始める「自発性」と、失敗を取り返したい / できるようにならないと恥ずかしいと言った後ろ向きな気持ちでチャレンジを始める「闘争」があります。2つ目のチャレンジ中の段階でも、ポジティブな状態としてチャレンジに夢中で楽しんでいる「没頭」と、ネガティブな状態としてチャレンジが簡単すぎて「退屈」、チャレンジが難しすぎて「不安」という状態があります。
ここでは、ポジティブな状態から始まったからと言って、ずっとポジティブなわけではなく、ネガティブになったり、ポジティブに戻ったりしながら進んでいくのではないかと考えております。
例えば、「やる気をもって始めた(ポジ)」けど「チャレンジが難しくて不安(ネガ)」になり、「失敗」したが、「次はこの失敗を活かして上手くいくはず(ポジ)」と言ったような遷移があり得ます。
そして、一回のチャレンジが終了した後は、次のチャレンジに向けて最初のステップに戻る・ループするのです。
デンソーデザイン部では、ポジティブであろうがネガティブであろうがチャレンジし続けている間(ループが回っている間)は幸福であると定義しています。一方で幸福でない状態は、「体験を止めてしまった」「惰性で続けている」と言ったチャレンジをしていない状態と考えています。ネガティブな状態であってもループが回り続けることもありますが、ほとんどの人はネガティブに居続けるとチャレンジから離脱してしまうため、いかにポジティブに誘導するか考えることも、デザイナーの重要な役割になりそうです。
料理をテーマに更なる実証実験を行い幸福メカニズム図の定量化に取り組んでいきました。
チャレンジの段階毎に相応しい質問紙の設定や、相関分析による質問毎の重みづけなどを通し定量化を達成しました。
アンケートに答えることでチャレンジのそれぞれの段階で、どの程度ポジティブなのかネガティブなのかを測定することができます。この定量化を用い「幸福度が長期的に向上しやすいパターン」「幸福度向上へ繋がるポイント」などを見出しました。現状分かっていることとしては、チャレンジ結果の「成功/失敗」と幸福度向上低下への相関は低い事です。一方でチャレンジ中に「没頭できたか否か」との相関は高く出ています。これは、チャレンジの結果よりもチャレンジ自体にやりごたえがあったか否かが一番重要であるということを示しています。幸福を含んだアプリ開発を行うには、適切なチャレンジを提供できているか?それを提供するにはどうしたら良いか?と言ったような、ゲームでのレベルデザイナーのような能力も重要になってくるかもしれませんね。
実証実験の中でアンケートによる定量化は完了しました。今後は、実験用のタスクではなくユーザーの実生活に近い環境の中で定量化ツールを用いていく事で、ツールの改良を重ねていく予定です。
また、アンケートでの定量化だけで満足せず、脳波や心拍変動といったバイタルデータからの定量化を行うことで、より正確に、より被験者の負荷を軽減したかたちでデータを取得していくことを目指しています。
Member
Poject Lead: Yuji Tsuchiya
Creative Direction: Chihiro Miyai
Research Lead: Chihiro Miyai
Research : Kento Morikawa
UI Design: Kento Morikawa
Other WorksAll Works